カランブーという選手を覚えているだろうか。
ニューカレドニア出身のフランス人。レアル・マドリードでチャンピオンズリーグを制し、フランス代表としてワールドカップと欧州選手権の両方を制覇した。でも、私が彼を記憶に刻んだのはそのタイトルの数じゃない。テレビ越しに見た、あの走りだった。
90分間、一度も足が止まらない。正確に言えば、止まっているように見えない。疲れている素振りがまるでない。ピッチを縦横に走り続け、ボールがないところでも動き続けて、気づけば画面の中でいつも目立っている。当時の私には、それが異様なほど印象に残った。
前田大然を見るたびに、あの記憶が蘇る。
スコットランドのピッチでは、前田はもう「図抜けた存在」という言葉すら生ぬるい。圧倒的な速さ。試合を通じて何度でも全力で走る持久力。そして、疲れているのを見たことがない、という一点において、世界でもほとんど見当たらないタイプの選手だ。
スコティッシュ・プレミアシップのフィジカル強度を低く見るつもりはない。ただ、そこで突出して見えていたとしても、舞台が変われば評価は変わる。プレミアリーグはフィジカルの基準そのものが違う。スピード、強度、プレッシャーのかかり方、すべてのリーグのなかでも特異な水準を持つ。そこで、前田はどう映るのか。
純粋に、ファンとして気になってしかたない。
デイリー・レコードによれば、前田はこの夏に関する「譲れない要求」を日本のテレビで明かしたという。記事を伝えたcelticnewsnow.comは、それがパークヘッドを離れる見込みの強さを改めて示すものだとしている。
昨夏にはウォルフスブルクへの移籍がほぼ成立寸前まで進んだが、クラブ側に阻止された経緯がある。今回の発言は、くすぶり続けていた退団への意欲を再燃させるものだ、と記事は読んでいる。
選手が移籍を望んでいて、移籍先まで決まりかけていて、それでも動けない。契約の縛りがそうさせているとすれば、それはクラブの「権利」として正当なのだろうが、見ていて居心地の悪いものがある。もう少し選手側に寄り添った形の契約慣行というものが、世界のフットボール界に広がっていくべきだと思う。それが無理な理想論だとしても、そう感じてしまう。
ただ、今は余計なことを考えずにシンプルに楽しみにしておきたい。
移籍先がどこになるかはまだ分からない。プレミアリーグとは限らない。でも、もしイングランドに行ったら——という想像が、このところずっと頭にある。
ピッチに立ったことのある人間なら分かる。本当に速い選手というのは、「速い」という感覚よりも「気づいたら消えている」という感覚で認識される。前田はまさにそういうタイプだ。しかもそれが、後半85分になっても衰えない。
プレミアリーグには確かに速い選手が多い。けれど、速さと持久力を同時にあれだけ高いレベルで持っている選手は、世界でもそう多くない。スコットランドで目立ちまくっていた男が、フィジカル強度の高いリーグに放り込まれたとき、どう見えるのか。カランブーを初めてテレビで見たときのあの衝撃に、似たものを感じるかもしれない。
スコティッシュ・カップ決勝でゴールを決めてシーズンを終えた前田が、この夏どこへ向かうのか。ただのファンとして、ワクワクしながら続報を待っている。
