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アルゼンチン代表
Argentina

決勝は、物語の続きを書く場所だ——W杯ファイナル40年史

2026年7月16日 リリース·独自記事

想像した人は、いない。

前回のワールドカップが終わった夜。ビシュトをまとった男がカップを掲げた、あのルサイルの夜。 4年後もメッシがアルゼンチンのユニフォームを着て、大黒柱として躍動し、チームを決勝まで運んでいる——そんな未来を描けた人間は、世界のどこにもいなかったはずだ。 物語は、あの夜に終わっていたはずなのだから。 だが、現実はここにある。

また、メッシだった。

準決勝、イングランド戦。2-1。 後半終了間際の同点弾も、アディショナルタイムの逆転弾も、最後のパスは同じ男から出た。 2アシスト。これでワールドカップの通算得点も、通算アシストも、歴代1位である。 もう、驚かない。今大会のアルゼンチンは、最後までどう転ぶかわからない試合を、ことごとく劇的な幕切れで拾ってきた。脚本でもあるのか。そう疑いたくなるほどに。 おそらく、これが最後のワールドカップになる。「メッシ最後のW杯」として、この大会は伝説に残る。ほぼ、確定した。 もっとも——4年前も、誰もがそう思っていたのだが。 決勝の相手はスペイン。37試合無敗。10代のヤマルを擁する、未来そのもののようなチームだ。 物語の最終章と、次の時代。7月19日、メットライフ。 この決勝は、何かを残す。根拠はない。ただ、予感だけがある。 なぜなら決勝とは、いつだってそういう場所だったからだ。 思えば40年前も、イングランドを沈めたアルゼンチンが、最後に笑っていた。 その記憶から、たどり直したい。


1986年、アステカ。アルゼンチン3-2西ドイツ。

西ドイツはマテウスをマラドーナに張り付けた。 だが、マークで消せる男じゃない。 先制はブラウン。この男、試合中に肩を脱臼している。ユニフォームに穴を開け、腕を差し込んで固定した。そこまでして立ち続けた。 2-0から、CK2発。わずか6分で振り出しに戻される。 崩れてもおかしくなかった。 直後の84分。囲まれ続けた男が、一本のスルーパスを通す。ブルチャガが走る。3-2。 この日のマラドーナの決定的な仕事は、ほぼこれだけ。それで十分だったのだ。 担ぎ上げられた背番号10がカップを掲げる。W杯史上、最も有名な一枚だと思う。


1990年、ローマ。西ドイツ1-0アルゼンチン。

史上初の、同一カードによる決勝の再戦。ただし美しくはなかった。「史上最悪の決勝」とまで呼ばれる。 アルゼンチンは4人が出場停止。狙いは徹底した破壊と、守護神ゴイコチェアのPK戦。 場所も悪すぎた。準決勝でイタリアをナポリで沈めた直後の、ローマである。 国歌はブーイングに消え、マラドーナが口汚く言い返す。カメラはその口元を抜いていた。 モンソンが決勝史上初の退場。デソッティも続く。 85分、疑惑のPK。ブレーメは外さない。 アルゼンチンは、決勝で無得点に終わった史上初のチームになった。 試合後、ベッケンバウアーがひとりピッチを歩く。主将と監督、その両方で世界一になった男の肖像だ。 3カ月後、東西ドイツは統一される。「西ドイツ」最後の優勝だった。


1994年、真昼のパサデナ。ブラジル0-0イタリア。PK3-2。

史上初のスコアレス。史上初のPK決着。米国のテレビ事情が、選手たちに酷暑の昼を強いた。 主役は2人のイタリア人だ。 満身創痍でチームをここまで運んできたバッジョ。そして半月板の手術から25日で戻り、決勝にフル出場した38歳のバレージ。 そのバレージが1本目を吹かし、最後にバッジョが蹴る。 ボールは、バーの遥か上。 うなだれる背番号10。優勝したブラジルの歓喜より、この一枚のほうが雄弁だった。 カップは24年ぶり。5月に逝ったセナに捧げられた。 序盤の負傷交代で入った男の名はカフー。ここから3大会連続で、決勝のピッチに立つことになる。


1998年、サンドニ。フランス3-0ブラジル。

試合前に、すべてが起きていた。 ロナウドの痙攣発作。メンバー表から消え、直前に戻るという前代未聞。陰謀論は、のちに議会の調査にまで発展した。 ピッチではジダンだ。27分と前半終了間際、いずれもCKからヘディング2発。「空中戦は怖くない」と分析していたブラジルの、まさに虚を突いた。 デサイーが退場して10人。それでも最後はプティで3点目。 その夜、シャンゼリゼは150万人で埋まった。凱旋門にジダンの顔が浮かぶ。Merci Zizou。 移民の子らが担った代表が、国の象徴になった夜だ。


2002年、横浜。ブラジル2-0ドイツ。

両国のW杯初対決が、いきなり決勝だった。バラックを出場停止で欠いたドイツと、王国。 主役は2人。 98年の悪夢と、2度の膝の断裂を越えてきたロナウドが、67分と79分。大会8得点で得点王。完全な復活である。あの三日月頭は「怪我の話題から目を逸らすため」だったと、のちに本人が明かした。 もうひとりはカーン。ここまで6試合1失点。その男が、傷めた指で一度だけこぼした。それが、失点になった。 ポストにもたれて座り込む背中。GK初のMVPは、敗者に贈られた。 カフーは3大会連続の決勝でカップを掲げ、故郷の名を叫ぶ。ペンタは、アジアで達成された。


2006年、ベルリン。イタリア1-1フランス。PK5-3。

ジダン、現役最後の試合。 7分、PKをパネンカで浮かせる。バーの下に当てて、入れた。大胆にもほどがある。 19分、そのPKを与えたマテラッツィが同点弾。因果の糸は、もう張られていた。 延長110分。挑発に、頭突きで応えた。一発退場。 トロフィーの脇を通り過ぎ、ロッカーへ消えていく背中。サッカー史でも屈指の画だと思う。 PK戦で外したのはトレゼゲだけ。ユーロ2000決勝で、イタリアをゴールデンゴールに沈めたあの男だけだった。最後はグロッソ。 スキャンダルの渦中にあったイタリアの、4度目の優勝。 そしてMVPは、退場したジダンである。


2010年、ヨハネスブルク。スペイン1-0オランダ。延長。

どちらが勝っても初優勝。なのに、美しい決勝じゃない。イエロー14枚は決勝史上最多。デ・ヨングの胸への飛び蹴りが黄紙で済んだことは、今も語られる。 オランダの勝機はロッベンの独走が2度。62分の1対1を、カシージャスがつま先で止めた。 そして116分、イニエスタのハーフボレー。 脱いだシャツの下には「ダニ・ハルケ、いつも共に」。前年に急逝した友への追悼だった。警告と引き換えの、あの一枚だ。 決勝トーナメント全試合1-0、総得点8。史上最少得点の優勝で、ティキタカは完成した。 クライフは母国の戦い方を「アンチフットボール」と断じた。


2014年、マラカナン。ドイツ1-0アルゼンチン。延長。

3度目の同一カード決勝。そして、アルゼンチンの浪費の記録でもある。 イグアインの1対1。幻のゴール。パラシオのループ。全部、決まらなかった。 ドイツにも異常事態はあった。急遽先発のクラマーが脳震盪のままプレーを続け、主審に尋ねる。「これは決勝ですか?」 113分、ゲッツェ。胸トラップからのボレー。 送り出す際、レーヴは言った。「メッシより上だと世界に示せ」。 交代で退いたクローゼは、これが最後のW杯。通算16得点を置き土産にした。 そして、MVPのメッシがトロフィーの前を虚ろに通り過ぎる。この決勝の、もうひとつの主題である。


2018年、モスクワ。フランス4-2クロアチア。

66年以来の6ゴール決勝は、初物だらけだった。 決勝史上初のオウンゴール。決勝史上初の、VARによるPK。 後半はポグバと、19歳のエムバペ。ティーンエイジャーの決勝ゴールは、ペレ以来だ。 ロリスの大失態を掻っ攫ったマンジュキッチは、OGと得点を同じ決勝で記録した史上初の男になった。 人口400万のクロアチアは3試合連続の延長を戦い、内容で押し、それでも屈した。 表彰式は土砂降り。傘は、プーチンにだけ。ずぶ濡れのまま選手を抱きしめる両国大統領の映像が、世界に流れた。 デシャンは、選手と監督の両方で優勝した3人目になった。


2022年、ルサイル。アルゼンチン3-3フランス。PK4-2。

史上最高の決勝。その呼び声に、異論は少ないはずだ。 80分間はアルゼンチンの独壇場だった。メッシのPK、ディ・マリアの涙のゴール。2-0。 そこから、エムバペである。 80分にPK。97秒後にボレー。一瞬で並べた。 延長でメッシが勝ち越し、118分にエムバペがまたPK。66年ハースト以来の、決勝ハットトリック。 120+3分、コロ・ムアニの決定機をエミリアーノ・マルティネスが左足一本で止める。事実上、あれが優勝の瞬間だった。 PK戦を制して、36年ぶりのカップ。 ビシュトをまとったメッシ。賛否はあった。 だが、マラドーナの後継という物語は、あの夜に完結した——はずだった。


完結したはずの物語に、続きがある。 相手は、負け方を忘れたスペイン。 7月19日、メットライフ。 決勝という場所が、また一枚、画を残す。 たぶん、そういう夜になる。

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出典・参考文献

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- FIFA公式サイト 歴代大会アーカイブ(fifa.com) - FIFA Technical Study Group Report(各大会) - RSSSF – Rec.Sport.Soccer Statistics Foundation(rsssf.org) - Brian Glanville『The Story of the World Cup』(Faber & Faber) - Cris Freddi『Complete Book of the World Cup』(HarperSport) - David Goldblatt『The Ball is Round: A Global History of Football』(Penguin Books) - 後藤健生『ワールドカップの世紀』(文藝春秋、1996年) - 後藤健生『サッカー歴史物語 今さら聞けない25のサッカー史』(2013年) - 後藤健生・加部究・亘崇詞『ワールドカップ最強伝説 歴史を変えた選手・チーム・戦術』(サッカー小僧新書) - 『Sports Graphic Number』(文藝春秋)各ワールドカップ特集号 - NHK NEWS WEB、ゲキサカ、Olympics.com 日本語版ほか 2026 FIFAワールドカップ関連報道(2026年6月〜7月)

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