グループFという響きを聞いて、どこか引っかかりを覚えた人は多いんじゃないか。
オランダ、スウェーデン、チュニジア。日本が2026年のワールドカップで戦う相手だ。突破できないグループじゃない。でも、楽なグループでもない。オランダは毎回、対戦するたびにそのフィジカルの圧力で日本を苦しめてきた。スウェーデンはシンプルに怖い。組織として機能する時の底堅さは、格上相手でも崩れない。
そのグループに、バイエルン・ミュンヘン所属のディフェンダーが入っている。
伊藤洋輝、27歳。
バイエルンのW杯参加選手をまとめた独メディアの記事は、ハリー・ケイン、アルフォンソ・デイヴィス、ミシャエル・オリーズといった名前を並べる中で、伊藤についてもグループFの日本代表として名前を挙げている。並んでいるのは紛れもなく世界のトップクラスの面々だ。
ジュビロ磐田、シュトゥットガルト、そしてバイエルン。この軌跡を「普通のキャリア」と言える人間はほとんどいない。国内クラブから出発し、ブンデスリーガで地位を確立し、ドイツ最大のクラブに引き抜かれた。左足の精度と、ボールを受けた瞬間の判断の速さ。守備者としての本質的な強さに加えて、ビルドアップに参加できる現代的な資質がある選手だということは、見ていれば分かる。
ピッチに立った経験を持つ人間なら分かると思うが、ポジション争いというのは「試合に出続けること」よりも「毎日の練習を積み重ねること」の方がよほど消耗する。バイエルンのトレーニンググラウンドで毎日競争に晒されながら、それでも代表のスターティングメンバーとして名前が呼ばれ続けているという事実に、この選手の現在地がある。
二度目のワールドカップという言葉の意味を、少し考えたい。
初めての舞台と二度目の舞台は、体感としてまったく違う。最初は何もかもが圧倒される。音も、雰囲気も、相手の速さも。でも二度目は違う。自分が何に慣れていて、何に慣れていないかを自覚した状態で立てる。それが強さになる場合もあれば、逆に過信を生む場合もある。
伊藤にとって今回はどちらか。
答えは試合の中にしかない。ただ一つ言えるのは、バイエルンで揉まれてきたこの二年間が、何かを変えているはずだということだ。ミュンヘンで培ったものを、グループFという舞台で発揮できるかどうか。それが日本の命運に直接関わってくる。
オランダ戦で左サイドから仕掛けてくる選手を一対一で止められるか。スウェーデンのセットプレーで跳ね返せるか。そういう具体的な場面で、バイエルンのDFであるということの意味が問われる。
日本サッカーが長年かけて蓄積してきたものの一つは、欧州のトップレベルに通用する選手を育てる土台だ。それがW杯という舞台に最も凝縮される時間帯が、今まさに近づいている。
伊藤洋輝がグループFで何を見せるか。
それは単なる個人の話じゃない。バイエルンで戦い続けてきた選手が、日本代表として世界の舞台に立つという、一つのキャリアの集大成でもある。
27歳の夏。二度目のW杯は、最初とは違う意味を持つはずだ。
