W杯の熱が冷めないうちに、市場が動き出した。
閉幕からわずか1週間。 欧州の日本人選手をめぐる状況は、この数日で一気に景色が変わっている。
今週から毎週、この移籍市場を定点観測していく。 確定した事実と、まだ噂の段階にある話。その線引きを明確にしながら、選手それぞれの物語を追いかけたい。
第1回の主役は、プレミア昇格組と、111億円の男だ。
昇格組に集う日本人
まず、確定した2件から。
7月25日、イプスウィッチが前田大然の完全移籍を公式発表した。2029年夏までの3年契約。クラブ史上初の日本人選手となる。
セルティックで残した数字は、通算212試合79得点。 現地報道によれば、前田はクラブの大型契約延長オファーを断っていたという。安住よりも挑戦。29歳で掴んだプレミアの舞台は、本人が自ら選び取ったものだ。
その前日、7月24日にはハル・シティが守田英正の獲得を発表している。スポルティング退団後、フランスや中東からのオファーを断り続けた末の決断だった。現地では「フリーで獲得できる選手の中で最も価値が高い1人」とまで評されていた男が、昇格組の中盤に頭脳を注ぎ込む。
そしてハルには、もう一つの物語がある。 1月からのレンタルでプレーオフ決勝の決勝点を演出し、昇格の立役者となった平河悠だ。本人は5月末に「残留したい」と明言している。保有元ブリストルとの交渉次第だが、守田に続く日本人の合流があれば、ハルはこの夏いちばん面白いクラブになるかもしれない。
111億円の中盤
今夏最大の争奪戦は、佐野海舟をめぐって続いている。
マインツの設定額は5,100万ポンド、約111億円。独ビルトによれば市場価値は€5,000万に急騰し、リバプールは€6,000万のオファーを準備していると報じられた。アーセナル、ドルトムント、トッテナムも代理人と接触済みとされる。
値札を変えたのは、間違いなくW杯ブラジル戦のあのロングシュートだろう。アリソンを破った一撃は、欧州中のスカウトの記憶に刻まれた。
そして注目すべきは選手本人の言葉だ。佐野は7月24日、マインツ退団とプレミア挑戦への意欲を示唆したと伝えられている。クラブは「注目されるのは当然」と強気を崩さないが、本人の心はすでに海峡の向こうにあるのかもしれない。
ドミノの先の守護神
鈴木彩艶の行方は、一人のアルゼンチン人にかかっている。
パルマ地元メディアによれば、アストン・ビラはすでにパルマと移籍金€3,000万で合意した模様。ただし前提は、守護神エミリアーノ・マルティネスのユベントス移籍だ。このドミノが倒れない限り、話は動かない。ニューカッスルも関心を寄せるが、第1候補は別のGKで鈴木は2番手とされる。
見逃せないのは、鈴木が先にリーズの5年契約提示を断っていることだ。 CL出場権を持つクラブを待つ——そう読める選択である。パルマは後継GKをすでに確保しており、クラブ記録での売却へ準備は整っている。あとはトリノの空にドミノが倒れる音を待つだけだ。
岐路に立つ男たち
フリーの冨安健洋は、我慢の夏を過ごしている。ヴェネツィア移籍がEU圏外枠の問題で消滅し、現在はトリノが代理人と具体的交渉に入ったと報じられる。ただ本人の最優先は今もプレミア復帰。「いつまでも待つつもりはない」という言葉に、静かな焦りと覚悟がにじむ。
上田綺世の状況は両論が併記される。フェイエノールトは€3,500万以上を要求し後継FWも獲得済みだが、現地では「その額に見合わない」と残留論も浮上した。それでも本人は、去就が決まるまでプレシーズンにフル参加を続けている。この振る舞いこそが、彼の価値だと思う。
田中碧には売却容認の報道が出た。リーズは適切なオファーがあれば放出に踏み切る構えとされ、イプスウィッチの関心も伝えられる。本人が望むのはプレミア残留。その一点だけは揺らいでいない。
静かな夏と、次の風
三笘薫と久保建英の周辺は、対照的に静かだ。三笘は契約延長交渉に大きな進展がなく、負傷明けの今夏は残留公算。久保に至っては地元紙が「加入以来最も静かな夏」と書いた。それでも7月23日、W杯組で最も早くチームに合流している。その姿が、答えなのだろう。
一方で、次の風も吹き始めた。スパルタ・ロッテルダムの三戸舜介だ。クラブは退団を容認し、移籍金はクラブ史上最高額を更新する見込み。ブンデス複数クラブがすでに接触している。
移籍市場の登録期限は、独・仏が8月31日、英・西・伊が9月1日。残りは約5週間だ。
来週の注目は、マルティネスのドミノ、佐野のクラブ間交渉、そして退団既定路線の旗手怜央と板倉滉の行き先。最新の全案件は移籍トラッカーで毎週更新している。
来週も、この場所で。
