サッカー選手のキャリアには、「たぶんこれが最後だ」と薄々わかりながら迎える試合がある。
本人がそれを口にするかどうかはともかく、周囲は気づいている。スタンドも、ベンチも、ピッチ上の同僚たちも。そういう試合は、不思議と空気が違う。
今週日曜日のPECズウォレ戦が、上田綺世にとってそういう試合になるかもしれない。
オランダのローカルメディア「Rijnmond」がフェイノールトの番記者情報として伝えたところによれば、上田の移籍話が水面下で進んでいる。契約残り2年、今年8月で28歳を迎えるというタイミングでの移籍金は、約1500万ユーロと見込まれているという。
エレディビジェの得点王として迎える夏だ。
移籍金の額だけを切り取れば、派手な数字とは言えない。だがそこには、上田というFWの立ち位置が正直に映し出されている。超大物ではない。でも確実に結果を出してきた選手だ、という評価の数字。
1500万ユーロ。安売りではなく、かといって夢物語でもない。妥当で、少し物悲しい。
鹿島アントラーズから欧州に渡り、ベルギーのサークル・ブルッヘを経てフェイノールトへ。参考情報にある彼のクラブ歴を改めてなぞると、それが「急がずに、でも確実に」積み上げてきたキャリアだとわかる。
華やかな大型移籍ではなかった。ブルッヘでまず結果を出し、それがフェイノールトへの扉を開いた。信用を積み重ねる、古典的で堅実な上がり方だ。
そしてロッテルダムで、彼は自分の価値を証明した。得点王という結果がそれを示している。
フィニッシャーとしての上田の強みは、ゴール前の「落ち着き」にある。あのエリアの中で、一瞬だけ静止できる選手がいる。流れに飲み込まれず、自分のリズムでシュートを打てる。それは技術より先に、精神的な何かだ。ピッチ上でしか養われない、独特の感覚。上田はそれを持っている。
だから得点王になった。だから1500万ユーロが動く。
今年の夏は、日本代表の選手たちにとってW杯というもうひとつの時間軸が重なる。上田にとっても例外ではない。参考情報によれば、これが2度目のW杯になる。
移籍のタイミングとW杯の準備が交錯する夏。どのクラブのユニフォームでW杯の後を迎えるのか、今の時点ではまだ誰にもわからない。
ただ、確かなのはひとつ。フェイノールトでの時間は、おそらくもう終わりに近い。
"エレディビジェの得点王"という肩書きを携えて、次の場所へ向かう。その先が大きなリーグなのか、より競争の激しい環境なのかは、これから明らかになっていく。
日曜日のPECズウォレ戦。
それが本当に最後になるかどうかは、まだ確定ではない。移籍話が「着々と進んでいる」というのは、まだ「決まった」ではないからだ。
でも、「たぶんこれが最後だ」という空気は、ロッテルダムのスタジアムに漂っているはずだ。
そういう試合を、選手はどんな気持ちで迎えるのだろう。いつも通りにウォームアップして、いつも通りにピッチに立って、でも頭の片隅に「次はないかもしれない」という感覚がある。
ゴールを決めたとき、いつもより少しだけ長く、スタンドを見渡すかもしれない。
それで十分だ。言葉はいらない。
