約束を果たした男は、約束した男がすでにいないピッチに立っていた。
アルネ・スロットはリバプールへ旅立った。しかしフェイノールトに残した言葉は、宙に浮いたままだった。「彼の中に本物のゴールゲッターが眠っている」——その予言を証明したのは、スロット不在の今シーズンだった、というのがなんとも皮肉だ。
上田綺世が今シーズン積み上げた25ゴールという数字は、個人の到達点というより、一人のストライカーが自分自身と向き合い続けた時間の結晶だと思う。
フェイノールトが9百万ユーロを投じたのは2023年のことだ。だがそのタイミングが、上田にとって最初の試練だった。クラブにはすでにサンティアゴ・ヒメネスという明確な序列があった。メキシコ人ストライカーの影に入り込むように加入した形になった上田が、エースナンバーを背負うまでには、どれほどの消化不良を抱えていただろうか。
ストライカーというポジションは、ゴールを決めることでしか自分の存在を証明できない。中盤の選手なら守備貢献でも、運動量でも評価の幅がある。しかしFWは違う。無得点が続くほど、自分でも信じられなくなっていく。スランプとは、技術の問題でもなく、フィジカルの問題でもなく、ほとんどの場合は「信じる力」が削れていく現象だ。スポットプレーヤーとして数少ないチャンスをものにしながら、それでも爆発しきれずにいた時期が上田にはあった。
鹿島アントラーズで腕を磨き、ベルギーのサークル・ブルッヘでヨーロッパの水を浴びて、そしてフェイノールトへ。この経路は、一見スムーズに見えて、実は相当に険しい道だった。
Jリーグから直接ビッグクラブに跳び込んだのではなく、ベルギーという「中継地点」を踏んだ判断は正しかったと思う。いきなりエレディビジエの強豪に乗り込んでいたら、今の上田はなかったかもしれない。ただ、その慎重な積み上げが、フェイノールトでの立ち位置の難しさとも表裏一体だった。「即戦力の大物」として扱われなかった分、序列の整理に時間がかかった。
182センチ。ヘディングも武器にできるが、欧州のリーグで「大きなストライカー」とは呼ばれない体格だ。それでもヘディングで点を取れるというのは、単に跳躍力の話ではない。ボールが来る前の動き出し、相手DFとの駆け引き、ヘディングの「面」の作り方——そういった細かい技術の積み重ねがないと、182センチで空中戦は制せない。スロットが「本物のゴールゲッター」と感じ取っていたのは、おそらくゴール前のそういった細部だったのではないか。
今シーズン、ロビン・ファン・ペルシーが指揮を執るフェイノールトで、上田はエレディビジエとクラブ双方のトップスコアラーになっている、とVoetbal Primeurは伝えている。
ファン・ペルシー自身、現役時代は「いつも少し評価されない」時期を経験したストライカーだった。アーセナルで長く過ごし、マンチェスター・ユナイテッドに移った年に爆発した。あの種の選手だからこそ、上田の中に見ているものがあるかもしれない。監督と選手の相性は、戦術の一致よりも、こういった「経験の共鳴」で生まれることがある。
25ゴール。スランプを越えてたどり着いた数字だ。これがVP賞3位という評価に結びついている。1位や2位が誰であれ、上田の3位はただの順位ではない。フェイノールトという環境で、ヒメネスの後ろで、スロットの言葉だけを支えに踏みとどまった選手が、ようやく自分のシーズンを手にしたということだ。
今夏、2026年W杯が始まる。上田にとって2度目のW杯だ。
所属クラブで25ゴールを積み重ねた状態で臨む代表の舞台は、3年前とはまるで違う景色のはずだ。クラブでの自信が代表に波及するのか、あるいは代表という別の文脈でまた新しい試練に直面するのか。
スロットの約束は果たされた。次の約束は、上田自身が自分にするものだ。
