決勝トーナメントの組み合わせ表を、何度も見直した。
日本が勝ち上がった場合の対戦相手が、順番に並んでいる。 ブラジル。ノルウェー。イングランド。アルゼンチン。スペイン、もしくはフランス。
声に出して読んでみると、少し笑いたくなる。 笑うしかない、というほうが正確かもしれない。
ワールドカップで優勝する、ということの意味を、改めて考えた。
それは「運よく一つ勝つ」ことではない。世界のトップクラスを、次から次へと、連続して破り続けることだ。一発勝負を7回。その全部を制した者だけが頂点に立てる。
言葉にすれば単純だが、あの対戦表を眺めると、その途方もなさが突然、腹の底に落ちてくる。
ブラジルを倒し、ノルウェーを倒し、イングランドを倒し、アルゼンチンを倒し、スペインかフランスを倒す。
そこまでやって、ようやく優勝だ。
今の日本の優勝確率は0.7%と弾き出されている。 100回ワールドカップがあって、日本が頂点に立つのは1回未満。
冷静に聞けば、残酷な数字だ。 でも逆に言えば、ゼロじゃない。
そして仮に、この5試合を全部ものにしたとしたら——その瞬間、何が起きるか、少し想像してみてほしい。100年後の教科書に載るレベルの話だ。大げさじゃなく、本当に。
スポーツの歴史というのは、絶対に起きないはずのことが起きた瞬間を中心に書かれている。それが1966年のイングランドであり、2022年のアルゼンチンだった。どの優勝も、当時の誰かには「ありえない」に見えた部分を含んでいた。
そのなかで、最初の壁として立ちはだかるブラジルについて、少しだけ正直に書きたい。
今この瞬間のブラジルは、かつてのブラジルではない。
2021年から2026年にかけて、ブラジルはEloレーティングで約140点を失った。南米予選での苦戦、監督交代の繰り返し、世代交代の停滞——複数の問題が重なった。同じ期間に日本が約150点を積み上げたことと合わせると、かつて389点あった差は99点まで縮まっている。
football wireが算出する中立地での期待勝率は、36.1%。 5年前、同じ指標で日本の勝率は9.6%だった。
「10回に1回」が「3回に1回以上」になった。 これは雰囲気の話ではなく、構造の話だ。
カカが2007年にバロンドールを受賞して以来、ブラジル人はその頂点に立っていない。約18年。象徴の不在は、じわじわと実力図にも反映される。ヴィニシウスという例外的な才能はいるが、彼一人でかつてのブラジルのような「威圧感の総量」を補えているかといえば、疑問が残る。
ピッチに立ったことのある人間なら分かると思う。 本当に怖いチームというのは、「次に何が来るか分からない」感覚を与えてくる。複数のチャンネルから圧力がかかり、どこを塞いでも別の穴が開く。あのブラジルは、そういうチームだった。 今はどうか。世界ランキングで5位の強豪であることは間違いないが、「目をつぶっても勝てる」という時代ではない。
だからこそ、こう思う。
ここで勝てないようなチームでは、その先の話はない。 ノルウェーもイングランドもアルゼンチンも、当然手強い。でも第一関門のブラジルを突破できないなら、残りの問いは成立しない。
日本が今何をすべきか、という話を始めるにあたって、まずブラジルというフィルターを通さなければならない。それが今回の組み合わせが示している現実だ。
0.7%という確率は、夢を否定する数字じゃない。 夢の解像度を上げるための数字だ。
残り99点の差を、90分間で埋められるか。
それだけの話だ。そして、それだけの話ではない。
