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佐野 航大
PSVアイントホーフェン · MF

「ほぼ海舟やん」——佐野航大がPSVで走らせているのは、兄と同じ燃料の、違うエンジンだ

2026年9月13日 リリース·独自記事

9月10日、アイントホーフェン。
チャンピオンズリーグのアンセムを、佐野航大は初めてピッチの上で聞いた。

前半、ボールを失った。
ベンチのペーター・ボスが身振りで伝えた。落ち着け、と。
試合後、監督は現地メディアにこう説明している。普段の彼はボールを持てば常に冷静で、正しい解決策を先に見ている選手だ、今日は緊張があったのかもしれない、と。

そして後半、相手のフェイントに釣られず、きれいにボールを奪い、そのまま独走でカウンターに持ち込んだ。
日本のファンの反応が、面白かった。
ほぼ海舟やん、と。

兄と比較される。
佐野航大は、たぶん一生それと付き合う。
兄の海舟はW杯でブラジルからゴールを奪った男で、日本のボランチで今いちばん名前が売れている。

ただ、9月10日の1本のカウンターを見て、ほぼ海舟、と言うのは半分しか合っていないと思う。
2人は同じ燃料で走っている。
回しているエンジンが、違う。

このコラムで書きたいのは、その違いだ。

兄のエンジンは、守備でかかる。

海舟の経歴は、遠回りに見える。米子北から鳥取、町田、鹿島、そしてマインツ。
2024-25のブンデスリーガで、走行距離393.7キロはリーグ1位だった。
翌2025-26はリーグ戦34試合をすべてフル出場し、401.1キロ。前の年より走って、順位は3位に下がった。デュエル勝利数362はリーグ2位タイ。
一言でいえば、奪う人だ。

W杯のブラジル戦、29分。
ハーフウェーライン付近で相手サイドバックのパスを読み切ってインターセプトし、そのままボールを運んで、アリソンの左を破った。
奪ってから、全部ひとりでやった。
海舟のチャンスメイクは、守備から始まる。守備が飛び抜けているから、その延長線上に、時折ああいうゴールが乗る。
本人は昨年末の映像インタビューで、走ればいいわけでも、ボールを取っているからチームが良いわけでもない、と量から質への転換を語っている。走行距離1位の男が、走ることを自分で相対化していた。

弟のエンジンは、ボールを持ってからかかる。

航大は米子北で1年生から10番を背負い、3年連続で選手権に出た。3年時のインターハイは準優勝。
J2の岡山で1年半プレーして、2023年夏にNECへ渡った。
オランダの3年目、2025-26は、リーグ戦34試合で3060分。フィールドプレーヤーで全試合フルタイム出場したのは、エールディヴィジで彼ひとりだった。
3得点7アシスト。NECはクラブ史上最高の3位で、チャンピオンズリーグ予選に届いた。

この夏、PSVが1450万ユーロを払った。NECの記録売却で、契約は2031年まで。
そして加入後、リーグ4連勝。開幕節に途中出場して以来、1分も欠場していない。
数字で見ると、リーグ戦のパス成功率は93〜94パーセントで推移している。奪う人ではなく、失わない人だ。
ピッチに立ったことのある人間なら分かると思うが、90分走れる選手と、90分走ってもボールを失わない選手は、別の生き物である。前者は鍛えれば作れる。後者は、走りながら考えられる頭が要る。

現地の評価も、そこを見ている。
公共放送の解説でフット・ヒュリットが中盤での出来を絶賛し、VIのピーテル・ズワルトは掘り出し物と書いた。
そのなかで、記者ヤールン・カプテインスの一文がいちばん正確だと思う。

"ボールを持てばうまく、デュエルでは鉄のように強い。そして疲れを知らない"

順番に注目してほしい。うまい、が先にきて、強い、走れる、が後ろに付く。
兄なら、順番が逆になるはずだ。

では、同じ燃料とは何か。
走ることだ。

2人は岡山の津山で育った。父がコーチをしていた地元クラブ、FCヴィパルテで小中を過ごした。
父はスニーカーを嫌い、子どもの頃の2人に下駄を履かせた。乾いた田んぼでもボールを蹴らせた。
海舟の足の裏が分厚く、指が長いのは、そのせいだと本人の周囲は言う。
そして、これは海舟本人が以前インタビューで語っていたと記憶しているのだが、兄弟はかなり遠い学校まで、2人で走って通っていたという。
走る、が生活だった家の話である。

父によれば、航大は兄に勝てないのが悔しくてサッカーにのめり込んだ。
その兄が守備で突き抜けた以上、弟は同じところで勝負しても勝てない。
同じ燃料で、違うエンジンを組んだのは、必然だったのかもしれない。

もうひとつ、航大自身が明かしているきっかけがある。
U-20日本代表のスペイン遠征で、内田篤人がミーティングを開いた。海外で成功するには、スカウトに見られている時間にどれだけ魅せられるかだ、と。
あれで火がついた、と航大は後に語っている。
NECの1年目、前半戦は途中出場が続いたが、後半戦で定位置を奪った。

走り続けてきた男が、一度だけ走らなかった試合がある。
この夏、NECのチャンピオンズリーグ予選、オリンピアコス戦。
航大はギリシャまで帯同しながら、出場を拒んだ。NECの会長は、出たくない選手をチームに置きたくなかった、と現地メディアに語った。
本人はテレグラーフ紙に、それまで移籍の機会があるたびに破談になってきた、怪我で今回も壊れるリスクを冒してプレーすべきだったのか、と話している。

NECは彼抜きで、延長の末にオリンピアコスを退けた。次のプレーオフでボデ/グリムトに敗れ、本戦には届かなかった。
美談ではない。
ただ、走らなかった90分の重さを、本人がいちばん分かっている。
だからCLの初戦で1分も休まず、最後まで走ったのだと思う。

2025年5月、兄弟はそろって日本代表に呼ばれた。
航大は、ライバルであり自分を一番理解してくれる兄と代表で一緒にプレーするのは子どもの頃からの夢だった、とコメントを出した。
海舟のほうは今年の年明けに、兄弟というより刺激し合えるサッカー友達のようだ、と語っている。
1年後、兄はW杯のピッチでブラジルから点を取り、弟は名簿に入れなかった。

今、弟はチャンピオンズリーグを走っている。
今年6月、4年後のW杯は絶対に出る、と古巣の地元紙に言い切っている。

ほぼ海舟、ではない。
同じ燃料で、違うエンジン。
その音が兄と聞き分けられるようになったとき、比較は終わる。

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直接引用部分 ・引用文: "ボールを持てばうまく、デュエルでは鉄のように強い。そして疲れを知らない" ・出典: PSVFans.nl「PSV-fans én media eensgezind over PSV-uitblinker: "Een koopje"」(2026年9月11日)に掲載された記者ヤールン・カプテインスの評(蘭語 "De Japanner is goed aan de bal én ijzersterk in de duels. Daarnaast is hij onvermoeibaar")を日本語訳 間接引用部分 ・ボス監督がボールロスト後に身振りで落ち着くよう伝えた点、「普段はボールを持てば常に冷静で、正しい解決策を先に見ている」「緊張があったのかもしれない」と説明した点(FCUpdate 2026年9月10日) ・航大がCLアンセムを初めて聞いた感想、レベルの高さへの言及(FCUpdate 2026年9月10日 本人インタビュー、記者 Sander Kamphof) ・フット・ヒュリットが Ziggo Sport で中盤の出来を絶賛した点(VoetbalPrimeur 2026年9月10日) ・VI のピーテル・ズワルトが「koopje(掘り出し物)」と評した点(PSVFans.nl 2026年9月11日) ・日本のファンが「ほぼ海舟やん」と反応した点(ABEMA TIMES 2026年9月11日) ・NEC会長アールベルスの「出たくない選手をチームに置きたくなかった」発言と、CL予選オリンピアコス戦を巡る経緯(DutchNews 2026年8月6日) ・航大がテレグラーフ紙に語った「移籍の機会があるたびに破談」「怪我のリスクを冒してプレーすべきだったのか」の要旨(Qoly 2026年8月16日、テレグラーフ紙引用) ・内田篤人のU-20スペイン遠征でのミーティングと「あれで火がつきました」(DAZN 内田篤人のFOOTBALL TIME、ライブドアニュース 2025年8月21日) ・父・龍一の「航大は兄に勝てないのが悔しくてのめり込んだ」「FCヴィパルテで父がコーチ」(web Sportiva 2023年4月8日) ・下駄・乾いた田んぼの幼少期エピソードと、足裏が分厚く指が長いという周囲の証言(FOOTBALL ZONE 2026年6月13日) ・海舟のブラジル戦のゴール経過(29分、ハーフウェー付近でインターセプト、独走、アリソンの左を破る)(フットボールチャンネル 2026年6月30日) ・海舟の走行距離(2024-25: 393.7km でリーグ1位 / 2025-26: 401.1km で3位、1位エッゲシュタイン406.9km・2位コウファル402.8km)とデュエル勝利数(2025-26: 362 で2位タイ、1位ディオマンデ437・同数オルバン)(bundesliga.com 公式スタッツ、2026年9月13日閲覧) ・航大が「フィールドプレーヤーで唯一の全試合フルタイム出場」(Qoly 2026年4月15日、ja.Wikipedia) ・兄弟同時選出時の航大のコメント「ライバルでもあり、自分を一番理解してくれる兄」「子供の頃からの夢」(ゲキサカ 2025年5月23日) ・「4年後のW杯出場は絶対」「チーム一丸となって岡山を盛り上げてほしい」(山陽新聞 FAGIGATE 2026年6月7日) ・海舟の「走ればいいっていうわけでもないですし、ボールを取ってるからチームがいいっていうわけでもない」の要旨(DAZN News「MISSION26」2025年12月24日) ・海舟の「兄弟というより、刺激し合えるサッカー友達みたいな感じ」の要旨(FOOTBALL ZONE 2026年1月3日) ・NECがCL予選3回戦でオリンピアコスを延長の末に退け、プレーオフでボデ/グリムトに敗れた点(NEC公式・VI 2026年8月) ・NECの3位が「歴史的」とされる点(VI 2026年) 参考情報の使用 ・航大の今季スタッツ(開幕節27分途中出場、以後リーグ3試合+CL1試合で各90分、パス成功率93〜94%、PSVリーグ4連勝、CL初戦1-1)は API-Football 由来の自社DB(2026年9月13日時点) ・航大の昨季(2025-26 エールディヴィジ 34試合3060分3得点7アシスト)と海舟の昨季(ブンデスリーガ34試合3059分)は自社DB ・航大の経歴(津山出身、FCヴィパルテ、米子北で1年から10番・選手権3年連続・2021インターハイ準優勝、岡山2022-23、NEC 2023年8月加入・NEC初のCL予選、PSV 2026年8月8日・1450万ユーロ・2031年まで・背番号24、A代表2試合)は ja.Wikipedia、ファジアーノ岡山公式、サッカーキング、DutchNews、自社DB ・海舟の経歴(津山出身、米子北、鳥取、町田、鹿島、マインツ2024年〜、A代表、W杯2026出場)は自社DB、ja.Wikipedia ・航大がW杯2026の名簿に入っていない点は自社DB(wc_meta) ・書き手の観察メモ: 兄弟が遠い学校まで2人で走って通っていたという話は、海舟本人が映像インタビューで語っていたという書き手の記憶に基づく(番組は未特定。本文中で「記憶している」と明示) 筆者の解釈・分析 ・「同じ燃料(運動量)で違うエンジン(兄=守備起点、弟=ボール扱い込みの万能型)」という主題そのもの ・「ほぼ海舟」は半分しか合っていない、という評価 ・海舟のチャンスメイクは守備から始まる、という読み ・航大を「奪う人ではなく失わない人」とした読み(パス成功率の解釈) ・カプテインス評の語順(うまい→強い→走れる)を兄なら逆になると対比した点 ・兄が守備で突き抜けたから弟は違うエンジンを組んだ、という必然論 ・CL予選欠場を「走り続けてきた男が一度だけ走らなかった試合」と位置づけ、CL初戦のフル出場と結びつけた解釈 ・「90分走れる選手と、走ってもボールを失わない選手は別の生き物」という身体感覚の記述 ・締めの「音が聞き分けられるようになったとき、比較は終わる」

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