168センチ。
2006年3月生まれの20歳。
ブンデスリーガの開幕から4試合、1分も欠けずにピッチに立っていた選手は49人いる。
そのうち2006年以降に生まれたのは、3人しかいない。
シュトゥットガルトのイェルチュ、アウクスブルクのバンクス、そしてフランクフルトの小杉啓太だ。
小杉は今年の1月、スウェーデンのユールゴーデンからフランクフルトに来た。
そして、座った。
1月9日のドルトムント戦から2月21日のバイエルン戦まで、リーグ戦7試合。記録に残っている出場時間は、ゼロだ。
半年後、開幕からずっと出ている。
左サイドバックで、360分。
出ているだけなら、書かない。
書きたいのは、走り方の話だ。
ブンデスリーガの公式サイトは、DFLが計測した走行データを公開している。
走行距離、スプリント、インテンシブラン、最高速度。
9月26日に、上位100人までを確かめた。
インテンシブラン、330本。リーグ4位。
スプリント、93回。リーグ8位。
走行距離、45.9キロ。リーグ17位。
インテンシブランというのは、公式が速度帯で区切っている「強度の高い走り」の回数だ。スプリントほど速くはない。でも、ジョギングではない。
寄せる。戻る。追い越す。
そういう走りが、4試合で330回あった。1試合に82回と少し。
上にいるのは3人だけだ。ドルトムントのスヴェンソン、シャルケのアウシシュ、アウクスブルクのベーレンス。
DFで小杉より上にいるのは、スヴェンソンひとりしかいない。
スプリントの8位も同じで、DFで上にいるのはハンブルクのカパルドだけだ。
累計の数字は、出場時間が長いほど大きくなる。
4試合フル出場の小杉が有利なのは、そのとおりだ。
だから、出場時間に関係のない数字にしてみる。
インテンシブランの本数を、走行距離で割る。
1キロ走るうちに、何回が強度の高い走りか。
小杉は、1キロあたり7.19本。
走行距離とインテンシブランの両方で上位100人に入った74人の中で、9番目に高い。
長く出ているから、積み上がっているのではない。
走っている時間の中身が、濃いのだ。
フランクフルトの反対側のサイドバック、バウムも同じリストにいる。スプリント14位、インテンシブラン27位、走行距離44位。
このチームのサイドバックは、両方とも走る。
ただ、小杉のほうが、3つとも上だ。
ここまでが、いい話だ。
ここからは、いい話じゃない。
フランクフルトは4試合で1勝2分1敗。9得点10失点で、10位にいる。
ホームでアウクスブルクに1-4。ユニオンと3-3、フライブルクと2-2。勝ったのは、アウェーのマインツ戦の3-1だけだ。
4試合で10失点しているチームの左サイドバックが、リーグで4番目に激しく走っている。
この2つの事実は、たぶん、切り離せない。
小杉の評点は、5.60、6.39、6.46、5.91。
デュエルは41回で25勝、勝率61.0パーセント。270分以上出たDF53人の中で、24番目だ。タックル8本、インターセプト8本。
悪くない。突き抜けてもいない。
走行データが測っているのは、仕事の量だ。
仕事の質は、まだ数字になっていない。
その小杉は、いま日本にいる。
アジア競技大会。U-21日本代表の背番号3。
9月19日にフランクフルトでフライブルクと2-2で引き分けて、22日に名古屋のチームに合流した。
グループリーグの最初の2試合には、間に合っていない。16日のホンコン・チャイナ戦と20日のキルギス戦は、ブンデスリーガの日程の中にあった。
合流の翌日、23日のタイ戦に左サイドバックで先発した。
後半2分、クロスのこぼれ球をペナルティエリアの手前で拾って、左足で決めた。3-0。
プロになってから、日本で公式戦に出るのは初めてだったという。
試合後の言葉が、残っている。
「IWの期間しか行けないのに大岩さんが呼んでくれた」
IWは、インターナショナルウィーク。代表の試合のためにFIFAが設けている期間で、この間はリーグ戦が止まる。
今年から、9月と10月の期間はひとつにまとめられた。9月21日から10月6日までの、16日間。
アジア大会の決勝は10月3日。日程だけを見れば、最後まで窓の中に収まっている。
フランクフルトの次のリーグ戦は、10月10日のライプツィヒ戦だ。
26日の準々決勝、北朝鮮戦は1-0で勝った。小杉はベンチで、出番はなかった。
準決勝は30日、大阪。勝てば、10月3日に豊田で決勝だ。
去年のユールゴーデンでは、リーグ戦28試合に出て、5アシスト。
代表歴はU-17、U-19、U-20。そして今、U-21。A代表には、まだ呼ばれていない。
半年前にベンチに座っていた20歳が、いまリーグで4番目に激しく走っている。
数字が言っているのは、そこまでだ。
その走りが失点を減らす走りに変わるかどうかは、10月のライプツィヒ戦から確かめる。
その前に、日本で、あと1試合か2試合ある。
