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齋藤 俊輔
ウェステルロー · MF

「60分が限界だった」21歳が、なぜ得点源になったのか——ウェステルローの日本人3人、それぞれの履歴書

2026年9月13日 リリース·独自記事

なぜ、今なのか。

9月5日、メヘレンで4-0。
ウェステルローの4点のうち3点を、日本人が決めた。
坂本一彩が7分に先制、齋藤俊輔が27分と67分。
最終ラインでは木村誠二が90分、立ち続けた。

翌日、ベルギーのサッカー専門サイトは、ウェステルローの日本人がメヘレンを翻弄したと書き、見出しでこう問うた。なぜ彼らは今になって浮上してきたのか、と。

その問いに、監督のイサム・シャライは意外な答えを返している。
戦術でも、覚醒でもない。
プレシーズン、という時間の話だった。

このコラムで書きたいのは、その一点だ。
ただ、その前に3人の来歴を少しだけ辿る必要がある。日本では、まだほとんど知られていない。

ウェステルローは、アントワープ州の田舎町にある。人口はおよそ2万4千。スタジアムは8千人ほどしか入らない。
2019年にクラブを買ったトルコ人実業家オクタイ・エルジャンは、地域の家族的なクラブであり続けると約束した。
その小さなクラブが、この1年半で日本人を3人集めた。

最初は坂本一彩。2025年1月、ガンバ大阪からのレンタルだった。
熊本の生まれ。ガンバのユースから、まだ高校生のうちにJ3でデビューし、2023年はJ2の岡山で修行。開幕戦でいきなり2点を取った。
ガンバに戻った2024年、J1で10得点。自身初の二桁だった。
ベルギーでは2試合目のゲンク戦で初ゴール。残留争いの半年で6点を挙げ、チームを1部に残した。
夏、ウェステルローは買い取った。移籍金60万ユーロ、3年契約。

次が木村誠二。2025年8月、FC東京から4年契約。
千葉の市川で育ち、FC東京の下部組織からJ1に上がった。
そこからの4年で、レンタルが4回。京都、相模原、山形、鳥栖。
転機は相模原にいた2021年の後半で、当時の高木琢也監督が対人の強さとフィードを買い、3バックの一角に据えた。
2024年、鳥栖でフルシーズンを戦い、パリ五輪のメンバーに入る。準々決勝のスペイン戦、4バックの一角で先発した。隣のセンターバックは高井幸大だった。
ベルギーへ渡るとき、移籍金180万ユーロを現地メディアは高すぎると書いた。A代表歴のない選手にその額か、と。

そして齋藤俊輔。2026年1月、水戸ホーリーホックから3年半契約。
横浜生まれ。名前は中村俊輔からもらった。
マリノスのジュニアユースまで進んだが、ユースには上がれず、桐光学園へ。中村俊輔も歩いた道である。
高校3年でインターハイ準優勝。プロからのオファーは水戸だけだったと、本人は後にインタビューで明かしている。高卒でプロになりたかったから、迷わなかったのだと。

齋藤の2025年は、少し異常だった。
J2で8得点。月間ベストゴールを1シーズンに3回。7月は月間MVP。J2のベストイレブン。
9月にはU-20ワールドカップでチリへ飛び、負けて帰ってきた。
帰国後の練習場で、今季は絶対に優勝すると気持ちを切り替えた、と地元メディアに語っている。
11月29日の最終節。水戸はクラブ史上初のJ2優勝と、J1昇格を決めた。
J2に26年間いたクラブの、初めての昇格だった。

その1か月後、齋藤の欧州行きが発表される。
J1の舞台に立たないまま、20歳で海を渡った。

ウェステルローが彼に見ていたのは、得点ではなかった。
加入を伝えた現地報道は、見事な経歴を持つ中盤、創造性のあるチャンスメイカーと紹介している。
実際、加入から半年の齋藤は、リーグ戦18試合で1ゴール。
それが今季、開幕から2週間で3点。
8月30日のズルテ・ワレヘム戦で直接フリーキック。9月5日のメヘレン戦で2発。
公共放送スポルザは齋藤をマン・オブ・ザ・マッチに選び、メヘレンの守備陣には手に負えなかったと書いた。

ここで、冒頭の問いに戻る。なぜ今なのか。

シャライ監督は、パワーの問題が大きい、スタッフがそこに多く投資したと説明したうえで、こう言った。

"以前は60分が限界だった。いまは、もっと出せる"

昨季の齋藤は1月加入で、プレシーズンを経験していない。今季は夏合宿を最初から走った。
監督の説明は、それだけだ。

ピッチに立ったことのある人間なら、この60分という数字の重さが分かると思う。
60分まで走れる選手と、90分走れる選手の差は、30分ではない。
残り30分、相手の足が止まった時間帯に、まだ切り返せるかどうか。
齋藤の2点目は67分、コングリーブの落としをワンタッチで沈めた。
昨季なら、ベンチに下がっていた時間である。

Jリーグは、長く春に開幕してきた。
だから1月に欧州へ渡る日本人は、向こうのシーズン後半にいきなり放り込まれ、夏合宿を知らないまま最初の評価を受けてきた。
その暦が、今年変わった。Jリーグは2026-27シーズンから秋春制に移り、この8月に開幕している。移行期の2月から6月は、百年構想リーグという特別シーズンだった。
これからは、Jから欧州へ渡る選手も夏に動きやすくなる。プレシーズンを最初から走れる日本人が、増えていくはずだ。
齋藤と坂本は、旧い暦で渡った最後の世代ということになる。
坂本は2025年1月加入で、その夏にプレシーズンを初めて経験し、昨季は主力として6得点。今季もすでに1ゴール2アシストだ。
木村は8月加入で、合宿の途中から合流した。今季ここまで全6試合、540分を1分も欠かさず戦っている。
高すぎるという声は、いまのところ聞こえてこない。

つまり、3人が今年そろって浮上してきたのは偶然ではない。
3人とも、初めて最初からいたシーズンなのだ。

監督の話には、続きがある。
セットプレーのとき、齋藤が味方に指示を出す姿をよく見る。英語はまだ発展途上だが、と笑ったという。
坂本については、多くの資質を持つ選手で、まだ自分たちのところにいてくれて嬉しい、目標は日本代表であるべきだと語った。
まだいてくれて。
この夏、坂本の名前が市場で動いていたことを、監督自身が認めた格好だった。
チームメイトのラパージュの言葉が、いちばん端的だ。彼らは口より足でしゃべる、と。

ひとつ書き添えておく。
日本の一部報道は齋藤を5試合4得点、得点ランク首位タイと伝えた。
8月15日のゲンク戦で齋藤のクロスが相手DFに当たって入った1点を、齋藤の得点に数えたものだ。
ベルギーの公式記録では、あれはオウンゴール。齋藤は3得点で、リーグ9位タイ。
それでも、日本人では最上位である。

チームは第6節を終えて13位。
開幕3連敗から、引き分けを挟んで2連勝。
9月12日のスタンダール戦は4-2で勝ったが、齋藤と坂本は72分にそろって交代し、得点はなかった。
量産と書くには、まだ早い。

次は9月20日、アウェーのシント・トロイデン。
向こうには、9月1日にトッテナムからレンタルで加わったばかりの高井幸大がいる。
ただし、この稿を書いている時点で高井は非EU選手の書類手続きが遅れ、9月12日の試合でようやくベンチに入ったところだ。20日に木村と向き合えるかどうかは、まだ分からない。
もし実現すれば、パリ五輪でスペインと戦ったセンターバックのコンビが、ベルギーの地方リーグで敵と味方に分かれることになる。
小久保、石渡、荒木、松澤。相手の日本人も多い。

人口2万4千の町のクラブが、その試合で何を見せるのか。
60分が、90分になった男たちの話は、まだ始まったばかりだ。

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直接引用部分 ・引用文: "以前は60分が限界だった。いまは、もっと出せる" ・出典: Voetbalkrant「Reactie. Westerlo-Japanners draaien KV Mechelen helemaal gek: waarom komen ze nu bovendrijven?」(2026年9月5日、Kevin Vanbuggenhout)に掲載されたイサム・シャライ監督の発言(蘭語 "Vaak was zestig minuten het maximum. Nu kan hij meer brengen.")を日本語訳 間接引用部分 ・現地サイトが「ウェステルローの日本人がメヘレンを翻弄」「なぜ今浮上したのか」と見出しで問うた点(同記事の見出しの要旨) ・監督が齋藤の変化を「パワー」「スタッフの投資」「昨季は半年のみ在籍・今季はプレシーズンを最初から消化」で説明した点(同記事) ・監督が齋藤のセットプレー時のコーチング、英語が発展途上である点に触れた点(同記事) ・監督が坂本について「多くの資質」「まだいてくれて嬉しい」「目標は日本代表」と語った点(同記事) ・チームメイトのアマンド・ラパージュが「口より足でしゃべる」と評した点(同記事) ・スポルザが齋藤をマン・オブ・ザ・マッチに選び「メヘレン守備陣には手に負えなかった」と書いた点(Sporza 2026年9月5日 試合記事) ・齋藤の加入を現地が「見事な経歴の中盤」「創造性のあるチャンスメイカー」と紹介した点(Voetbalkrant 2026年1月12日、KVCウェステルロー公式 2026年1月14日) ・木村の移籍金180万ユーロを現地メディアが「高すぎる」と書いた点(Football Tribe Japan 2025年8月9日の報道) ・8月15日ゲンク戦の1点が公式にはスメッツのオウンゴールである点(Voetbalkrant 試合記事) ・齋藤がプロ入り時のオファーは水戸だけだったと語った点、名前が中村俊輔に由来する点(Qoly 2025年9月26日インタビュー) ・齋藤がU-20W杯から帰国後「今季絶対に優勝する」と語った点(デイリーホーリーホック 2025年10月17日) 参考情報の使用 ・今季スタッツ(3人の出場・先発・分・得点・アシスト、齋藤の得点日時・分、坂本の先制点とアシスト、木村の540分)は API-Football 由来の自社DB(2026年9月13日時点) ・得点ランキング(齋藤3点で9位タイ)と順位(第6節終了時13位)は Voetbalkrant 統計ページ・順位表 ・坂本の経歴(熊本出身、ガンバユース、高校生でJ3デビュー、2023年岡山レンタル・開幕戦2得点、2024年J1で10得点、2025年前半6得点、買取60万ユーロ・3年契約、昨季6得点)は ja.Wikipedia、ガンバ大阪公式、自社DB ・木村の経歴(市川出身、4度のレンタル、相模原での高木監督起用、2024年鳥栖、パリ五輪スペイン戦先発と高井幸大とのCBコンビ、4年契約)は ja.Wikipedia、FC東京公式、サッカーキング、ゲキサカ ・齋藤の経歴(横浜出身、マリノス下部組織→桐光学園、インターハイ準優勝、2025年J2で8得点・月間ベストゴール3回・7月月間MVP・J2ベストイレブン、U-20W杯、水戸のJ2初優勝・初昇格、3年半契約、昨季18試合1得点)は ja.Wikipedia、Jリーグ公式、ゲキサカ、自社DB ・ウェステルローの町の規模・スタジアム・オーナー(2019年買収)は 英語版 Wikipedia ・次節(9月20日 シント・トロイデン戦)は API-Football 日程。高井幸大のSTVV加入(9月1日)は Voetbalfocus、書類手続きの遅れと9月12日のベンチ入りは Spurs Web 2026年9月7日(HBVL 引用)および自社DB(9月12日 出場0分) ・Jリーグの秋春制移行(2026-27シーズンから8月開幕、2026年2〜6月は明治安田J1百年構想リーグ)は ja.Wikipedia「Jリーグ秋春制」「2026/27シーズンのJリーグ」 筆者の解釈・分析 ・「プレシーズンという時間」を3人共通の主題として立てた点(原記事は齋藤についてのみ言及) ・60分と90分の差を「残り30分に切り返せるか」と読み替えた身体感覚の記述 ・齋藤の2点目(67分)を「昨季ならベンチにいた時間」と結びつけた解釈 ・1月に欧州へ渡る日本人選手が夏合宿を知らずに最初の評価を受ける、という一般化と、秋春制移行で今後は夏に動く選手が増えるという見通し(齋藤・坂本を「旧い暦の最後の世代」と位置づけた点を含む) ・「まだいてくれて」を夏の移籍観測の示唆と読んだ解釈 ・「高すぎる」の声が1年後に聞こえないという評価 ・「量産と書くには早い」という現状評価 ・STVV戦をパリ五輪CBコンビの再会として位置づけた点

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