ブロリンが拳を突き上げ、くるりと回りながら跳び上がる。
あのシーンは何度でも思い出せる。1994年のアメリカ大会、スウェーデンが3位になったあの夏だ。黄色と青のユニフォームが眩しくて、ヨーロッパの強豪という言葉がそのまま形になったような存在感があった。昭和生まれの自分にとって、スウェーデンとはそういう国だ。近づきがたいほどの「格上」という感触が、今も身体の奥に残っている。
だから今、FIFAランキングで日本18位・スウェーデン43位という数字を見るとき、正直なところ、まだ少し不思議な感覚がある。
グラフで両国の軌跡を追うと、物語はかなり鮮明だ。
スウェーデンは1994年を境に長い下り坂に入り、2009年には42位まで沈んだ。イブラヒモビッチという圧倒的な個が在籍した時代でも、ランキングは期待ほど上がらなかった。2017〜18年に一度14位まで回復し、ベスト8進出でスウェーデンらしさを取り戻したかに見えたが、その後また30位台へ。足元の数字は38位だ(6月11日付)。
一方の日本は、2017年の57位を底にして、2019年28位、2022年20位、2024年15位と、ほぼ一本調子で上がってきた。かつては天と地ほど開いていた差が縮まり、2000年代前半には並び、そして今や日本が順位では上に立っている。
ワールドカップの出場記録を並べると、立場の逆転はさらに際立つ。1994年以降、スウェーデンは1998・2010・2014・2022と予選敗退を繰り返した。その間、日本は1998年から皆勤で、2002・2010・2018・2022にはいずれも決勝トーナメントに進んでいる。2010年と2022年は「スウェーデン不出場・日本16強」という構図だった。
客観的に見れば、チームとしての勢いはいま、日本が上にある。
それでも、油断という言葉が頭をよぎる。
自社の分析によれば、スウェーデンの26人のうち5大リーグ所属は17人。日本は13人だ。しかも、最高峰とされるイングランド・プレミアリーグに絞ると、スウェーデンは10人が英国のクラブで戦っている。
アレクサンダー・イサクはリバプールのストライカーだ。ヴィクトール・ギェケレシュはアーセナルに所属し、直近のネーションズリーグで得点王を獲得、プレーオフでも決勝点を決めてこの大会への出場を手繰り寄せた現在のエースだ。デヤン・クルゼフスキはトッテナムでキャリアを積んでいる。
ランキングの数字やW杯の出場記録は、チームとしての流れを示す指標だ。だが、ピッチで戦うのはチームの流れじゃない。個々の選手だ。そして、最高強度のリーグで毎週90分をこなしている選手の質感は、ただの「格下相手」と戦う空気感とは根本的に違う。ボールを持った瞬間のプレッシャーの速さ、コンタクトの強さ、切り替えのリズム——あの種の密度は、試合を重ねた身体が直感的に覚えているものだ。
黄金世代という言葉がある。
ブロリン、ラーション、リュングベリ、イブラヒモビッチ。スウェーデン代表の輝きは、例外なく個の輝きと重なってきた。そして今、イサクとギェケレシュというふたりが、久しぶりに「本物」という形容が似合う前線を作っている。このふたりを同時に止める仕事は、日本の守備陣にとって、ランキング差が示すよりずっと重たい課題になるはずだ。
スウェーデンにとってもこの大会は久々の本番だ。フォルスベリが本大会メンバーから外れ、ヴィクトル・リンデロフが主将として引っ張る形になった。チームとしての熟成度という点では、試行錯誤の余地もある。それは弱点にも見えるし、逆に「失うものがない」という開き直りにもなり得る。
6月26日、ダラスで直接対決がある。
憧れだったスウェーデンに対して、今の日本は「格上と戦う」という感覚ではなく「対等以上の相手と戦う」という認識で入れるはずだ。それは、正しい進歩の証でもある。
ただ、「恵まれた組み合わせ」という空気に乗りすぎると、足元をすくわれる。ランキングの順位は文脈を語るが、ピッチの上での力関係を決めるのは、そこに立つ選手のコンディションと、その日の90分だ。
ブロリンのあの回転ジャンプを覚えている世代として、正直に言う。スウェーデンはまだ、甘く見ていい相手じゃない。
