先週、この連載の結びにこう書いた。 「来週の注目は、マルティネスのドミノ、佐野のクラブ間交渉」。
半分は当たり、半分は予想もしない方向へ転がった。 ドミノは倒れず、逆流した。決定的だった移籍がひと晩で白紙になり、練習生だった男が実戦のピッチに立った。
移籍市場の一週間は、シーズンの一か月に等しい。 今週はその振れ幅を、選手たちの心の動きとともに記録しておきたい。
ドミノは逆流する
鈴木彩艶ほど、一週間で景色が変わった選手はいない。
週の初め、構図はシンプルだった。アストン・ビラがパルマと€3,000万で合意した模様——あとは守護神マルティネスのユベントス移籍を待つだけ、のはずだった。
ところが、そのユベントスが鈴木本人へ正式オファーを打つ。パルマはこれを拒否。さらにPSGが交渉に参戦し、ロマーノ氏は「PSGとユベントスがパルマと交渉中」と投稿した。
そして週末、決定打が出る。マルティネスのイングランド残留が濃厚に。ビラがユーヴェの提示額を拒み続けたためだ。倒れるはずだったドミノは逆流し、舞台はバーミンガムからトリノとパリへ——伊仏の争奪戦に変わった。
忘れてはいけないのは、鈴木自身がこの夏、リーズの「正GK確約」という好待遇を自ら断っていることだ。 流されているのではない。舞台を、選んでいる。
同じベルギーで、明と暗
大迫敬介の一週間は、あまりに劇的だった。
7月30日、広島が「海外移籍を前提としたチーム離脱」を発表。ユニオン・サンジロワーズへ、メディカルを経て正式契約——のはずだった。クラブはネーム入りユニフォームの「返金不可」まで案内していた。
翌31日、暗転する。ユニオンSGは欧州大会の登録期限に間に合わせるため、別のGKの獲得契約にサイン。地元紙は「大迫が獲得されることはなさそうだ」と伝えた。27歳で踏み出した初めての海外への一歩は、ひと晩で白紙に戻った。
同じベルギーで、逆の決断をした男もいる。谷口彰悟だ。 W杯敗退の翌日に「所属チームすら決まっていない」と語った35歳は、古巣・川崎の熱望を受けながらも「帰郷は時期尚早」と結論を出し、STVVと再契約した。「今シーズンもSTVVでプレーできることを、大変嬉しく思います」——クラブ初の欧州カップ戦が、その心を決めさせた。
扉は、自分でこじ開ける
冨安健洋は今週、「練習生」から「大筋合意」まで駆け上がった。
きっかけは鎌田大地との親交で実現した、パレスの練習参加。当初talkSPORTは「加入への話し合いは行われていない」と釘を刺していた。それが数日でBBCの「条件面では既に大筋合意」報道に変わり、7月31日にはトライアル選手として親善試合に出場。28分間、プレミア復帰への履歴書をピッチの上で書いた。
「いつまでも待つつもりはない」と言っていた男は、待つのをやめて、証明する側に回った。
選手の心と、クラブの論理
一方で、動かない案件には動かない理由がある。
佐野海舟は7月24日、マインツ退団とプレミア挑戦への意欲を示唆した。だがクラブのSDは言い切る。「売却を急ぐ必要はまったくない。金額が市場価値に達していなければ、海舟が残留する可能性もある」。選手の心とクラブの論理が、£5,100万の値札を挟んでにらみ合っている。
逆の力学もある。バイエルンのエーベル取締役は伊藤洋輝について「出て行きたい考えがあるなら、我々はそれに向けて取り組む」と退団容認を明言した。ただし、買い手はまだ現れていない。出たい者は止められ、出されそうな者に行き先がない——市場の皮肉だ。
リーズでは田中碧に「構想外通告」の報道。旗手怜央には英2部降格のウェストハムから関心が届くが、5大リーグを目標に掲げてきた本人にとって、それは妥協を意味しかねない。
静かな決断も、記しておく
遠藤航は英報道によれば、リバプールと残留で合意した。喧騒の外で腰を据える選択もまた、ひとつの決断だ。19歳の高岡伶颯は、サウサンプトンからベルギー2部マースメヘレンへ。「ステップダウン」と評されても、出場機会を取りに行く一歩を私は支持したい。
締切は刻一刻と近づく。独・仏は8月31日、英・西・伊は9月1日。そしてベルギーは9月8日まで開いている——大迫の仕切り直しにも、まだ時間はある。
来週の予告は、もうやめておく。この市場は、予告を裏切るのが仕事らしい。 最新の全案件は移籍トラッカーで毎週更新している。
