足首の手術を受けた選手が代表に選ばれる。
それだけ聞けば、「どういうことだ」と首をひねる人もいるかもしれない。だが、遠藤航の話となれば、話は少し変わってくる。
2月にリヴァプールのクラブ練習中に負傷し、手術を受けた。シーズンの大半をピッチの外で過ごした。それでも日本代表のワールドカップメンバーに名前が入った。これは温情でも慣習でもなく、フィットネス状態が十分に回復していると判断されたからこその選出だ。
ワールドカップは2026年6月に開幕する。
逆算すれば、時間はある。ない、とも言える。
足首というのは厄介なパーツだ。膝ほど派手ではないが、ピッチで激しく足を踏み込む動作に直結している。重心移動の起点となるあの関節に不安を抱えたまま、相手のプレスを受け流すことはできない。ボランチというポジションが、どれほど足元の確かさを要求するか。それはピッチに立ったことがある者なら、骨の感覚として知っている。
4月末、アーネ・スロット監督は遠藤が「屋外でのリハビリを開始した」と明かし、シーズン終盤の復帰への期待を口にした。チームとの合流はまだだったが、外の空気の下でボールを蹴り始めた——それだけで、関係者の見る目は少し変わる。
今シーズン、遠藤のリヴァプールでの出場は12試合、455分にとどまっている。
数字だけ見れば、厳しい。スロット体制においてレギュラーの座を確保できていないのは事実で、夏の移籍も話題に上がっている。契約残り1年という状況が、クラブ側の判断を加速させる可能性は十分ある。
だが、ここに面白い構図がある。
ワールドカップでのパフォーマンスが輝けば、リヴァプールの「交渉カード」の価値が上がる。つまり、遠藤自身が活躍するほど、クラブにとっての手放しやすさが増すという逆説だ。プレーヤーの未来と、雇用主の算段が、同じ方向を向きながらも全く異なる意図を持っている。サッカーの移籍市場とはそういう場所だ。
遠藤航は今年33歳になった。
参加すれば、3度目のワールドカップとなる。
1度目の経験は感覚として全てが新しい。2度目は自分の位置を確かめる旅だ。そして3度目は、何かを残すための舞台になる。それが何なのかは、本人にしか分からない。
ただ、この年齢でこの経験を積んできた選手が、代表のキャプテンとして世界最大の舞台に立つ意味は、単なるキャリアの積み上げとは少し違う。周囲の若い選手に与えるものがある。声ではなく、立ち居振る舞いで伝わるものがある。
手術明けで迎えるワールドカップが、どんな姿を見せるのか。
その問いへの答えは、ピッチの上にしかない。
