サッカー選手が「残りたい」と言うとき、それが本心であることもある。 だが「残ってほしい」と願われているとき、選手がそう言わざるを得ないこともある。
久保建英がアスレティック・ビルバオとのダービー後に残したコメントを聞いて、私はどちらだろうと考えた。
「今のところ契約があり、ソシエダに残って、クラブが改善されることを望んでいる。ただ、監督と同様、何が起きるかは分からない」
残留を明言していない。クラブへの愛着を語っているようで、その文の後半に「何が起きるかは分からない」という言葉がついてくる。選手が本当に残留を望んでいるなら、こういう言い方にはならないはずだ。
今のソシエダがどういう状況にあるか、少し整理しておく必要がある。
スポーツディレクターのロベルト・オラベをはじめ、長年クラブを支えた監督イマノル・アルグアシルも退団。フロント・現場の双方で、チームの骨格を作ってきた人間たちが相次いでいなくなっている。COPE Gipuzkoaが伝えるその「構造的解体」という表現は、決して大げさではない。
久保自身もそれを肌で感じているはずだ。彼は試合後、かつてのソシエダのサッカーへの郷愁を口にした。「試合を支配して次々にチャンスを作っていたころのソシエダが少し恋しい」と。
これは懐古趣味ではない。今のクラブが、かつて自分が惹かれたクラブとは別の何かになりつつある、という感覚だ。
久保がソシエダに加入したのは2022年のことだ。レアル・マドリードを軸にしながらマジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェとローンを繰り返してきた長い旅の末に、ようやく「ここが自分の場所だ」と言えるクラブに辿り着いた。
移籍した直後から主力として機能し、今シーズンは48試合に出場して7ゴール4アシストを記録。出場試合数は自己最多だという。数字だけ見れば充実している。
だが、ピッチに立ち続けた人間なら分かる。チームが変わっていく予兆というのは、試合の流れの中に現れる。何かがかみ合わない、以前なら通っていたパスのコースが閉じている、そういう肌感覚が積み重なっていく。久保がダービーを0-0で終えた後にあの言葉を選んだのは、その積み重ねの結果だと思う。
COPE Gipuzkoaの報道によれば、久保の代理人が最近クラブを訪問し、今後の方向性を確認したという。代理人が動く、というのはひとつのシグナルだ。選手が「何もない」ならば、わざわざそのタイミングで訪問する必要はない。
英国クラブからの関心も伝えられており、ヨーロッパ大会の出場権が去就を左右する分岐点になるとも言われている。それはそうだろう。来季ヨーロッパの舞台に立てないなら、25歳の久保にとってそこに留まる理由は格段に減る。
ちょうど1年後には北中米ワールドカップが開幕する。今の森保ジャパンで久保が核であることは言うまでもない。その準備期間としてのシーズンを、どのクラブでどのリーグで過ごすか——それは久保本人にとっても、日本代表にとっても、軽い話ではない。
「クラブが改善されることを望んでいる」という言葉は、裏を返せば「今は改善されていない」という認識だ。
久保は正直な選手だと思う。言葉を選びながらも、核心から大きく外れたことは言わない。あのコメントは、慎重な表現の中に本音が透けて見える種類の発言だった。
ソシエダがこれからどういうクラブになるのか。新しい体制が久保の信頼を取り戻せるのか。それが見えるまで、彼は「待つ」だろう。だが待ち続けることにも、限界はある。
かつて自分が惹かれたあのソシエダを、久保はまだ待っている。ただ、その待ち方が、少し変わってきた気がする。
