サッカーの「熱狂」を語るとき、ピッチの外の話はどうしても後回しになる。
戦術、スカッド、対戦相手の分析。そういうものに比べれば、バスが一台、大西洋を渡ったというニュースはたしかに地味だ。
でも、私はこのニュースが妙に好きだ。
Voetbal Primeurの報道によれば、W杯2026に向け、通称「オランダバス」がアメリカに到着した。ベルギーのゼーブルージュから船に積み込まれ、テキサス州ガルベストンに陸揚げされたという。
過去10回の主要大会でオランダサポーターの先頭を走り続けてきたバスが、また一つ海を越えた。
数週間かけて。船で。バスが。
その事実だけで、なんとなく笑えてくるし、同時にじんとくる。
スポーツの大会には、公式のシンボルというものがある。マスコット、エンブレム、テーマソング。それらは主催者が作り、主催者が管理する。
オランダバスは違う。
誰かが「やろう」と言い出して、誰かが船に乗せて、誰かが現地で走らせてきた。そのサイクルを10大会繰り返してきたのだ。オランダ代表が強かった時代も、惨めに予選落ちした時代も、関係ない。バスはいつも先頭にいた。
それはもはや「サポーターの出し物」ではなく、ひとつの継続する物語だと思う。
ピッチで走る選手は毎大会入れ替わる。ヴァン・ダイク、フレンキー・デ・ヨング、コーディ・ガクポ——今大会のスカッドも錚々たる顔ぶれだが、いつかは彼らも退く。でもバスは残る。積み込まれ、運ばれ、また走る。
6月14日、オランダはダラスで日本と初戦を迎える。
グループFの対戦相手は日本、スウェーデン、チュニジア。FIFA7位のオランダとしては、グループ突破は最低限のノルマだろう。ガルベストンに着いたバスは、ダラスからヒューストン、カンザスシティへと、チームの動きに合わせて移動していく予定だという。
選手より先に現地入りしたバスが、会場から会場へと移動するそのルートを想像してみる。
テキサスの強烈な日差しの下、オレンジ色のバスがハイウェイを走る。その光景は、どこか滑稽で、どこか壮大だ。
ピッチに立って勝負する緊張感と、スタンドやその外で大会を「生きる」サポーターの高揚感は、根っこのところでつながっていると思う。
選手は勝利のために戦う。サポーターは、その場にいるために、ありとあらゆる手を尽くす。バスを船に乗せてまで。
どちらも本気だ。
そしてその本気が積み重なることで、大会は単なるスポーツイベントを超えた何かになる。
オランダバスの10大会という記録は、オランダ代表の勝敗記録よりずっと安定していて、ある意味でずっと誠実だ。負けても来る。予選落ちしても、次は来る。それだけの話だが、それだけのことができるのは、並大抵の愛着ではない。
バスはもう着いている。
選手たちがピッチに立つのは、まだ先のことだ。
でも、オランダのW杯は、もう始まっている。
