欧州の8月は、下から始まる
今節(8月3日〜9日)、欧州で試合のメンバーに入った日本人選手は、当サイトの集計で42人。
うち36人が、実際にピッチに立った。
リーグの内訳には、はっきりした偏りがある。
ジュピラー・プロリーグ。ドイツ2部。イングランドのリーグカップ1回戦。
欧州のシーズンは、一斉には始まらない。ベルギーは8月8日に開幕したばかり。ドイツも2部が一足先に開幕し、1部とプレミアリーグはまだ夏の親善試合の途中にいる。
だから今節のカードには、開幕節の試合が並んでいる。伊東純也のアシストも、ゲンクの開幕戦で生まれたものだ。
先に始まるのは、たいてい下のカテゴリーだ。
8月上旬のスタッツ表は、格上のリーグを待たずに、下から埋まっていく。
そしてこの順番には、必然がひとつ含まれている。
昨シーズン、上のリーグから落ちたクラブは、いま下のリーグにいる。
つまり、降格した者たちのシーズンが、誰よりも先に始まる。
ドイツ2部に、降格組の4人
今節、2.ブンデスリーガでは10人の日本人選手がピッチに立った。
そのうち4人に、共通点がある。
そして塩貝健人。ヴォルフスブルク。
いずれも昨季、ブンデスリーガ1部でプレーしていた。
ザンクトパウリは最下位で降格。ヴォルフスブルクは16位で入れ替え戦に回り、パーダーボルンに敗れて、1997-98シーズンから守り続けたトップリーグの座を失った。
4人は、降格したクラブに残ったまま8月を迎えた。
普通に考えれば、不遇の話に見える。代表の仲間たちの多くは、まだ1部の開幕を待っている。その横で、彼らのシーズンだけが2部で始まった。
でも、一人ずつ追っていくと、そんなに単純な話ではなかった。
降格という同じ出来事が、4人にまったく違う意味を持っていた。
出たい人、残りたい人
いちばんわかりやすいのが藤田譲瑠チマだ。
7月中旬、地元紙『Hamburger Abendblatt』が、藤田がクラブに退団希望を伝えたと報じた。1部でプレーしたい、という意思表示である。
24歳。昨夏にシント=トロイデンからクラブ史上2番目の移籍金で加入し、1年目からブンデスリーガで存在感を示した。2部で1年を使う理由は、たしかに見つけにくい。
8月に入ると、今季チャンピオンズリーグに出るランスの名前まで浮上した。移籍が実現すれば、クラブ史上最高額になるという報道もある。
一方で、マルセル・ラップ監督の姿勢ははっきりしている。ここにいる限り、彼は使う。契約は残っている。移籍はそう簡単には成立しない――。
そして実際、開幕戦の藤田は先発フル出場だった。
出たいと言った選手を、外さずに使う。
ザンクトパウリらしいと言えば、らしい。
安藤智哉は、逆だった。
同じ『Abendblatt』が6月、安藤について「本人が移籍を望んでいない」と伝えている。降格しても、残る。
そして今節の評点は7.50。ザンクトパウリの日本人3人では、いちばん高い数字だった。
残ると決めた選手が、開幕戦でいちばん良い出来だった。
これはこれで、ひとつの答え方だと思う。
評価されたから、動けない
塩貝健人の話は、少し皮肉だ。
今年1月、ヴォルフスブルクは契約解除金を満額支払って、NECナイメヘンから塩貝を獲得した。契約は2030年まで。移籍後初ゴールも決めた。
そしてチームは降格した。
この夏は、かねて獲得を狙ってきたハンブルガーSVへの移籍が取り沙汰されていた。
ところが8月上旬、その話に暗雲が漂っているとドイツ側が報じた。
理由は、ヴォルフスブルクの新監督が塩貝を高く評価したから、である。
放出は保留。残留が濃厚になった。
評価されたから、動けなくなる。
移籍市場には、こういうねじれが普通に転がっている。
開幕のカイザースラウテルン戦、塩貝は途中出場の27分だった。
そして、出番が回ってきた人
原大智の8月は、他の3人とは向きが違う。
今年1月、京都サンガからザンクトパウリへ。26歳での欧州再挑戦だった。
ただ、1部ではなかなか出番が来なかった。3月の時点で、リーグ戦の出場時間は合計30分ほど。現地メディアに「出番が限られている」と書かれる立場だった。
その原が、開幕戦に先発で73分プレーしている。
もちろん、1試合だけの話だ。
「降格が出番を運んできた」と言い切るには、まだ早い。
ただ、1部で30分だった選手が、2部の開幕戦に先発で73分立った。
その事実は、記録しておく価値があると思う。
来週、表の顔ぶれが入れ替わる
ここまで書いてきた4人のクラブは、来週こういう組み合わせで戦う。
8月14日 ホルシュタイン・キール vs ザンクトパウリ 関根大輝のキールと、藤田・安藤・原のザンクトパウリ。
8月16日 ハノーファー96 vs ヴォルフスブルク 松田隼風のハノーファーと、塩貝のヴォルフスブルク。
2部で戦うクラブ同士の対戦に、日本人が集まる。
欧州カップの予選も始まる。
チャンピオンズリーグ予選には、ハーフナー・ニッキのユニオン・サン=ジロワーズと、小川航基のNECナイメヘン。
ヨーロッパリーグ予選には、北野颯太のザルツブルクと、小林友希のヤギェウォニア。
カンファレンスリーグ予選には、鈴木淳之介のコペンハーゲン、伊藤敦樹のヘント、板倉滉のアヤックス。
そして14日の夜には、イングランド・チャンピオンシップも開幕する。森下龍矢と大橋祐紀のブラックバーンは、初戦からウルヴスと当たる。相手は、プレミアから降格してきたクラブだ。
平河悠、斉藤光毅、岩田智輝、松木玖生、菅原由勢。リーグカップで先に姿を見せた選手たちも、リーグ戦に入っていく。
来週の表は、今週よりずっと厚くなる。
今週の36人は、シーズンの入口の数字にすぎない。
それでも、この入口には、入口にしか見えないものがある。
降格したクラブに残った4人が、それぞれ違う顔で8月に立っている。
その姿は、全員がそろった9月の表のなかでは、たぶん見えなくなる。
今節の全カードと出場時間・評点は「日本人選手ウィークリースタッツ」で公開しています。毎週月曜朝更新。
