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10月2日、FIFAが北中米W杯の大会後レポートを公開した。全104試合を、9つの戦術テーマで分析している。 その中に、日本だけを扱った章がある。
章の題は「柔軟な形」。 日本は守備のときに5-2-3で構え、ボールを持つと3バックとボランチ2人の「3+2」に組み替えた。レポートによれば、この形は4試合すべてで使われた。相手のプレスに応じて田中碧か佐野海舟が最終ラインに下り、4バックにもなる。 軸として名前が挙がるのは2人だ。伊藤洋輝は後方から持ち上がってラインを破り、そのパスの数はチームで最も多かった。鎌田大地は、伊藤が上がった背後を埋めながら中盤で受け続け、受ける動きの回数は大会のボランチで9番目だった。
守備の評価はもっと高い。 日本とオーストラリアは、FIFAランキング30位以内のチームでありながら、自陣深くで守る時間の割合が大会トップ5に入った。レポートはこれを、弱いから引いたのではなく「狙って選んだ守り方」として扱っている。5-4-1で横幅を広く、縦は短く保ち、11人全員がボールより後ろに戻る。その型の代表例が日本だった。
FIFAが描いた日本は、よく組織されたチームだった。
ただ、同じ章には厳しい一文もある。
「数値は最強の相手を前に落ち、最大の舞台で頂点には達しなかった」
FIFAが試合ごとに出しているレポートで、日本の4試合を並べてみる。
| 相手 | 結果 | 日本の保持率 | ゴール期待値(日本・相手) | 自陣深くで守った割合 |
|---|---|---|---|---|
| オランダ | 2-2 | 37.4% | 日本0.34点・オランダ0.63点 | 50% |
| チュニジア | 4-0 | 55.1% | 日本1.36点・チュニジア0.02点 | 22% |
| スウェーデン | 1-1 | 44.7% | 日本1.22点・スウェーデン0.56点 | 27% |
| ブラジル | 1-2 | 30.3% | 日本0.26点・ブラジル2.12点 | 60% |
ゴール期待値は、作ったチャンスを点数に換算した値。自陣深くで守った割合は、守備の時間に占める比率。
自陣深くで守る時間が半分を超えたオランダ戦とブラジル戦で、日本が作ったチャンスは0.3点前後にとどまった。前で構えられたチュニジア戦とスウェーデン戦では、どちらも1.2点を超えている。 オランダ戦の2得点は、チャンスの量からすれば上出来だった。守備の堅さが、攻撃の少なさを覆い隠していた試合とも言える。
では、勝ち上がった国は何が違ったのか。 レポートは「勝ち方は一つではない」と繰り返す。それでも、いくつかの共通点は読み取れる。
1つ目は、奪う位置の高さだ。 優勝したスペインは、敵陣で失ったボールの60.1%ですぐに奪い返しに行き、奪い返した回数も大会最多だった。フランスも高い位置で一斉に奪いに出るチームで、レポートはその効果を、身体能力ではなく「タイミングと集団の一致」によるものと書いている。
2つ目は、出口だ。 レポートには、自陣で守るときに味方の塊から最も離れて前に残っていた選手の一覧がある。2位がエムバペで平均17.7メートル、5位がメッシで16.6メートル。アルゼンチンとフランスは、引いて守った後でも、奪った瞬間に預ける相手が前にいた。 日本はこの逆だった。11人全員で守るから崩れにくい。その代わり、奪ったボールを預ける先がない。ブラジル戦の60%は、その形が最も強く出た試合だった。
ここで、選手個人の話になる。 レポートは特定の選手への依存を慎重に避けて書いている。それでも、サイドから前進したフランスやブラジル、コートジボワールについては、はっきりと「成功の源は個の質」と書いた。 日本の章に出てくる伊藤や鎌田は、仕組みの中の役割として描かれている。個の質で勝ったチームの一覧に、日本の名前はない。
個の質の差を、所属クラブで確かめてみる。 JFAの山本昌邦技術委員長は大会後の総括で、スペインにはCLでベスト8以上に進むクラブの選手が圧倒的に多いと指摘した。 大会直前の2025-26シーズン、CLのベスト8に残ったのは、パリ・サンジェルマン、バイエルン、アーセナル、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、レアル・マドリード、リヴァプール、スポルティングの8クラブ。FIFAが公表した各国の登録メンバー26人のうち、この8クラブの選手を数えた。
| 国 | W杯の成績 | ベスト8クラブの選手 | 48か国中の順位 |
|---|---|---|---|
| スペイン | 優勝 | 15人 | 1位 |
| アルゼンチン | 準優勝 | 7人 | 5位タイ |
| フランス | ベスト4 | 12人 | 2位 |
| イングランド | ベスト4 | 7人 | 5位タイ |
| 日本 | ラウンド32 | 2人 | 12位タイ |
スペインはバルセロナだけで8人を抱えていた。W杯のベスト4は、4か国とも7人以上で上位6か国に入る。山本委員長の指摘は、数字でも裏付けられる。 ただ、人数だけで決まるわけでもない。3番目に多いドイツの10人は、ベスト4に届かなかった。アルゼンチンの7人のうち6人はアトレティコの選手で、メッシはアメリカのインテル・マイアミに所属している。それでもメッシは8試合で8得点を挙げ、チームを決勝まで導いた。 日本は、リヴァプールの遠藤航とバイエルンの伊藤洋輝の2人だった。
所属クラブの層は、4年で一気には変わらない。 だからこそ、突出した1人の価値は大きい。いまの日本の仕組みに、そういう選手が加わったらどうなるか。自陣で守る時間が長くても、奪った瞬間にボールを預けられる選手がいれば、0.3点の試合は違う試合になる。 突出した選手は、前線にだけ生まれるとは限らない。ロドリのように、奪い返す仕組みそのものの土台になる選手もいる。
次の4年で、どこか1つの国を丸ごと目指す必要はないと思う。 レポートを読み返すと、日本の弱点にそのまま効く部品が、国ごとに散らばっている。
まず、奪う位置。 スペインから学べるのは、攻めている最中の並び方だ。ボールを持っているときから、ロドリを最後尾に置き、失った瞬間に囲める距離に味方を配置していた。 日本の3+2も、本来は後ろに5人を残す形だ。その5人を「守るため」だけでなく「すぐ奪い返すため」の配置として使えるかどうか。 フランスから学べるのは、飛び出す合図だ。4-4-2で待ち、相手がバックパスをした瞬間に、全員が目の前の相手に付く。日本はブロックを組む力では大会屈指と評価された。足りないのは、そこから一斉に出ていく共通の合図だ。
次に、奪い切る効率。 セネガルは、奪われた直後のプレスで奪い返した割合が25.9%で、大会で最も高かった。それでいて、1回のプレスに関わる人数は平均2人に届かない。サイドの選手が素早く戻り、寄せる角度でパスコースを切って奪っていた。 JFAの山本昌邦技術委員長は大会後の総括で、日本は寄せる量ではベスト8の水準にあったが、奪い切る部分で差があったと話している。セネガルは、その差を人数ではなく角度で埋めたチームだ。
それでも、押し込まれる試合は必ずある。そのときの出口の作り方は、カーボベルデとパラグアイが参考になる。 カーボベルデは、自陣深くで守った割合が大会で最も高かった。それでも奪えば前線へすぐ縦パスを入れ、中盤とサイドが一気に追い越した。パラグアイは、奪ったらまず10番のエンシソに預け、エンシソが前へ運んだ。 どちらもスターを前に残す形ではなく、奪った後に最初に誰へ出すかを決めておく設計で、今の日本でも再現しやすい。
アルゼンチンからは、形を変える柔軟さを学べる。ふだんは4バックだったが、決勝トーナメントの3試合だけ3バックに変え、敵陣深くへの進入を増やした。日本は4試合すべてを同じ形で戦った。 セットプレーも伸ばせる。大会のコーナーキックから生まれた32得点のうち17点に、相手の守備者をブロックする役の選手が絡んでいた。
どれも、日本がすでに持っている3+2の形とコンパクトな守備の上に足せる部品だ。ただ、奪う位置を上げれば、そのぶん背後のスペースは広がる。どこまで上げるかの見極めは要る。
足りないのは、その上で試合を決められる個だ。 それは戦術では作れない。以前の記事「ペレの予言と、ふたつの青」で書いたように、育成の網の広さと、そこから突き抜ける才能を待つしかない。 546ページの中に、日本人の名前が「個の質」の欄に載る日を楽しみにしている。
