前号の最後に「値札を下ろすのか、下ろさないのか」と書いた。 答えが出た。マインツは、下ろさなかった。
独・仏の登録期限は8月31日。残り2日。 英・西・伊は9月1日。
下ろさなかった者たち
マインツは佐野海舟の売却に、社内の期限を設けていた。8月27日。市場が閉まる直前に後任を探す羽目にならないための、自衛の時計だ。
その日が、具体的なオファーのないまま過ぎた。
最有力と報じられたライプツィヒは「要求額が高すぎる」と手を引き、半額で獲れるバルセロナのマルク・カサドへ切り替えたという。€6,000万の値札は、最後まで誰の手も届かない場所に掛かったままだった。
ハイデルSDは以前からこう言っていた。「何もなければないで、我々は満足だ」。強がりではなかったわけだ。契約は2028年まで、解除条項なし。売り手が満足している限り、交渉は始まらない。佐野は今季もマインツでプレーする公算が大きい。
ランスも、下ろさない。中村敬斗への要求額€2,500万は市場価値の倍以上とされ、ハル・シティは別のFW獲得を優先して離れていった。本人は早期の移籍を望んでいるが、現地では残留の見方が強まっている。
値札は、選手を守る壁にもなれば、閉じ込める檻にもなる。
締切前に、静かに決めた男
そんな週に、ひとりだけ欧州の中で扉を開けた。
伊藤敦樹。ヘントで構想外になっていた28歳が、8月28日、英2部ボルトンと3年契約を結んだ。西澤明訓、中田英寿、宮市亮に続くクラブ史上4人目の日本人で、完全移籍では初。「非常に情熱的なアプローチを受けた」と本人は言う。
7月にはJリーグ復帰説が出ていた。だが選んだのは、29歳を前にしたイングランド初挑戦だった。派手な金額も、争奪戦もない。それでも今週、欧州のクラブ間で完結した日本人の移籍は、これひとつだ。
時計の外側
締切に追われない道を行く者たちもいる。
小川航基は町田へ。3年ぶりのJ復帰で、ナイメヘンからの移籍金は€200万弱。「W杯に出るため、活躍するために」という逆算の決断だ。瀬古樹も浦和へ戻り、加入から1週間で早くもピッチに立った。Jリーグの窓は、欧州の時計とは別に動いている。
中山雄太は逆方向へ。町田を離れ、セルビアの名門レッドスターと基本合意した。実現すれば2年ぶりの欧州復帰。セルビアの窓は9月1日まで、こちらは時計の内側の話だ。
そして堂安律。この夏もっとも静かだった男のもとに、締切のいちばん遠い国から電話が鳴った。サウジのアル・イテハドが€1,800万を提示し、本人には年俸€900万規模という。フランクフルトは拒否し、ヒュッター監督は「リツはとても重要な選手だ」と突っぱねた。ただしサウジの窓は10月12日まで開いている。この話だけは、月曜を過ぎても終わらない。
月曜と火曜に、賭ける者たち
残り48時間で決めなければならない者は、まだいる。
菅原由勢。サウサンプトンで構想外のまま、今週セルティックが動いた。ジョンストンの長期離脱で右サイドバックが空いたためで、前田大然との会話が決断を後押しするという見方もある。PSVも並走しており、行き先は最後の2日に委ねられた。
上田綺世は、逆に静かになってしまった。唯一の正式オファーだったフェネルバフチェが消え、残るは英勢の関心だけ。設定額€3,500万の値札を、フェイエが土壇場で下ろすのかどうか。
旗手怜央、田中碧、高井幸大、伊藤洋輝。それぞれの名前の横にも、まだ「未定」の文字が並んでいる。
締切カレンダーを、最後にもう一度。 独・仏 8月31日。英・西・伊 9月1日。蘭 9月2日。ベルギー 9月8日。葡 9月15日。サウジ 10月12日。
残り2日。ここから先は、時計が決める。 全案件の現在地は移籍トラッカーで毎週更新している。
